高校を中退(退学)したいと悩む子供と親が知るべき対処法
高校は義務教育ではないので、必ずしも卒業しなければいけないというものではありません。
しかし、高校進学率が97%を超える今、高校を中退すると最終学歴は中卒となり、その後の人生にマイナスになることがあります。
令和元年度の全日制高校の中退者数は18,290人で、在籍者数の0.8%にあたります。
30年前の平成2年度の中退者数は60,887人、中途退学率は1.5%なので減少していますが、それでも年間に約18,000人の高校生が学校を途中で退学しているという現実があります。
このページでは、高校を中退したい理由とそのときにどうすればいいかについて詳しくご説明します。
高校中退したい、退学したいと感じる主な理由
まずは、高校中退したい理由にはどんなものがあるのかを見ていきましょう。
文部科学省が実施している調査によると、全日制高校を中退した理由でもっとも多いのは「学校生活や学業への不適応」で、中退した生徒の41%を占めています。
(調査では主たる理由を1つ選択して回答、%は中途退学者の中で占める割合です)
中退理由 | 人数 | 構成比 |
---|---|---|
学校生活・学業不適応 | 11,131人 | 41.0% |
進路変更 | 9,749人 | 35.9% |
学業不振 | 2,032人 | 7.5% |
問題行動 | 1,321人 | 4.9% |
病気・ケガ・死亡 | 1,271人 | 4.7% |
家庭の事情 | 971人 | 3.6% |
経済的な理由 | 173人 | 0.6% |
その他 | 476人 | 1.8% |
参考:令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
では、それぞれの理由について、詳しく見ていきましょう。
学校生活や学業への不適応
高校入試に受かって入学した高校ですが、学校が合わないなどの理由で辞める生徒が中退生徒の41%を占めています。
詳しい理由の内訳は次の通りです。
※グラフと表の%は、中退理由に「学校生活への不適応」と回答した11,131人を100%とした場合の割合を示しています。
理由 | 人数 | 構成比 |
---|---|---|
もともと高校生活に熱意がない | 3,657人 | 32.9% |
人間関係がうまく保てない | 3,067人 | 27.6% |
学校の雰囲気が合わない | 1,911人 | 17.1% |
授業に興味がわかない | 1,133人 | 10.2% |
その他 | 1,363人 | 12.2% |
参考:令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
「中学校時代の成績で入れそうな高校を選んだが、卒業するまで通いたいという熱意がない」「友達関係がうまくいかない」などで続けられなくなって中退する生徒が多いことがわかります。
その背景には、中学校の進路指導や子どもに帯する親の過度な期待などがあると考えられます。
平成3年に文部科学省が実施した「高等学校中途退学者進路状況等調査」で高校を中退した生徒に中学校の進路指導への要望を聞いたところ、次のような回答が寄せられています。
- 高校の生活や勉強についてもっと教えてほしい……29.05
- 将来の職業についてもっと教えてほしい……26.5%
- 自分の入学したい高校を受けさせてほしい……24.7%
- 将来の生き方についてもっと教えてほしい……20.6%
このように「高校に入ること」だけを目標にしていたり、将来の職業ややりたいことを十分に考えずに高校選びをすることなどが高校入学後に「学校に合わない」「意欲が出ない」といったミスマッチを招き、中退につながっている可能性があります。
進路変更
進路変更を理由に現在の高校を中退する生徒も全体の約36%を占めています。その内訳は次の通りです。
※グラフと表の%は、中退理由に「進路変更」と回答した9,749人を100%とした場合の割合を示しています。
理由 | 人数 | 構成比 |
---|---|---|
別の高校への入学を希望 | 5,618人 | 57.7% |
就職を希望 | 1,895人 | 19.5% |
高卒程度認定試験受験を希望 | 895人 | 9.2% |
専修・各種学校への入学を希望 | 360人 | 3.6% |
その他 | 981人 | 10.0% |
参考:令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
進路変更を希望して中退する生徒の約20%は別の高校への入学を希望しています。一度高校に進学してから別の高校に移ることを「転入」と言いますが、事前にどんな高校なのかをよく調べておく必要があります。
自分の学力に合っているか、やりたいことが学べるのか、学校の雰囲気はどうか、自分に合う友達ができるかどうか、通学できる範囲かどうか……などさまざまな視点で検討しないと、転入先でも「ここも自分には合わない」と思う可能性があるからです。
また、進路変更で中退した生徒の7%は就職を希望しています。しかし、高校を卒業していないので「中卒扱い」となり、昇給や出世にマイナスの影響を与えてしまいます。
なんとか高校は卒業して大学や専門学校に進学するか、「高卒」という立場で就職活動する方が長い目で見ると有利になるでしょう。
学業不振
テストの成績が悪い、勉強についていけない、さらには落第するかも知れないといった学業の不振で中退した生徒が約2,000人(中退生の7.5%)います。
また、高等学校中途退学者進路状況等調査では、回答した中退生徒の約30%が進級できなかったと回答しています。全日制高校では進級できないと「原級留置(留年)」になってしまいます。
高校2年生に進級できないと、1つ年下の生徒ともう1度1年生をやり直さなければなりません。
それがイヤで高校を中退した生徒が多いことがわかります。
なお、通信制高校の多くは単位制で「留年」がありません。自分のペースで高校を卒業できます。
問題行動
問題行動とは、飲酒や非行、万引き、少年犯罪などがあげられます。
最近は校則違反で退学になるケースは少ないと思われますが、学校内でのケンカから暴力行為に及んでしまったり、非行グループとつきあって抜けられなくなったりといったケースも見られます。
経済的な理由
経済的な理由で高校を辞めざるを得ない生徒も173人(中退生徒の0.6%)と少数ですが存在しています。
私立でも公立でも、高校の授業料に対しては国の就学支援金制度が利用できるので授業料の全額または一部は実質免除されています。
ただ、高校は授業料以外に修学旅行代や部活動の費用などがかかります。また、最近は勉強でノートパソコンが必要なところも増えています。
そのような諸費用の支払いが厳しい、就学支援金制度の存在を知らないといった経済的な理由で中退するケースもあります。
子供向け:高校を中退したいと感じた時にするべきこと
現役高校生が高校を中退したいと思ったときは、次のことをやってみましょう。
- 親(保護者)に相談する
- スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーに相談する
- 別の高校に転入する
- 留学する
- 通信制高校に転・編入する
親(保護者)に相談する
高校を中退したいと思ったら、まずは保護者の方に相談しましょう。
学費を出してくれているのは保護者の方ですし、あなたの人生を一番心配しているのも保護者の方です。
中退したい理由やそう思うようになった経緯を話して、今後のことを相談するのがおすすめです。
また、退学を学校に申し出る際には、本人だけでなく保護者も一緒に学校に説明に来るように言われます。
その席で「保護者は退学に同意しているのか」「十分に話し合ったのか」などを聞かれます。事前に家庭内で何も話していないと、保護者の方は寝耳に水で驚いてしまうでしょう。
その段階で話し合いがこじれる可能性があるので、必ず事前に気持ちを伝えて、今後どうしたいのかという結論を出しておきましょう。
スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーに相談する
高校を中退したいとき、学校の担任の先生にはなかなか相談しづらいものです。
そんなときはスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーに相談するという方法もあります。
スクールカウンセラーは生徒や保護者の心理面の相談に乗るだけでなく、教職員の相談に乗ることもある学校専門のカウンセラーです。
公認心理師や臨床心理士、精神科医の資格を持つ人が生徒の相談やアドバイスを行います。
一方、スクールソーシャルワーカーは環境面の問題に対応しており、福祉関係の制度や施設の利用などのアドバイスが受けることが可能です。
スクールソーシャルワーカーは会福祉士や精神保健福祉士、臨床心理士などの資格を持つ人が担当しています。
ただカウンセラーが配置されている学校は多くない
ただし、スクールカウンセラーが配置されている高等学校は令和元年時点で2,572校で、全国の高等学校数4874校の約53%にとどまっています。
小・中学校への配置は進められていますが、高校はまだ配置されていない学校も多いので注意しましょう。
また、スクールカウンセラーは学校に常駐しているわけではなく、週に2~3日のみ出勤かつ勤務時間も1日数時間というケースが多いので早めに相談に行くことが大切です。
もし通っている学校に配置されているのであれば、先生に言えないこと(友達関係、部活動の悩み、成績が下がった、学校に来るのがつらいなど)を聞いてもらえるので、相談してみるといいでしょう。
別の高校に転・編入する
保護者や学校にきちんと話をした上で、今の高校を中退したい場合、別の高校に転入や編入するという選択肢があります。
転入は在籍している高校から別の高校に入り直すことで、転校と同じ意味合いを持ちます。一方、編入は一度高校を退学し、どこにも在籍していない空白の期間がある人が別の高校に入り直すことを指します。
在籍していた高校で修得した単位は引き継げる場合があるので、相談してみましょう。(単位の引き継ぎには条件があります。)
公立高校、私立高校ともに若干名の転・編入の募集を行っていますが、学校や学科によってはまったく募集していないところがあります。また、募集時期もさまざまで、多くは各学期末に募集されていますが、募集人数は少ないのが現状です。
転・編入に際しては学力試験や面接があり、それに合格しないと入れません。
事前に転・編入を希望する高校のことをよく調べておかないと、また辞めたいと思うことになるので気をつけましょう。
留学する
「高校でイヤなことがあり、地元で友達と顔を合わせたくない」「日本の学校ではやりたいことが学べない」といった理由があり、保護者の理解や同意が得られるなら留学するという方法もあります。
その際には、今の環境から逃げるのではなく、留学して何を得たいのかといった目的を明確にすることが大切です。
また、海外は日本とは異なり、生活の面でも環境面でもさまざまな問題が起こりやすくなります。金銭面、環境面を合わせて、事前の調査が欠かせません。
通信制高校に転・編入する
全日制高校に転・編入するという選択肢だけでなく、通信制高校への転・編入もおすすめです。
私立の通信制高校では時期を問わず転・編入生の募集を行っていますし、試験も書類審査のみというところが多いので受験の心配がありません。
通信制高校はネットなどを使った自宅学習が中心で、大学進学のサポートに力を入れているところも多くあります。また、全日制高校では学べないような本格的なスキル取得ができるコースもあります。
3年で卒業という縛りがなく、全日制高校で修得した単位を引き継げるというメリットもあるので、何校か資料請求して比較検討してみるといいでしょう。
親向け:子どもに高校を中退したいと言われた時の対処法
子どもから「高校を中退したい」と言われたら、親は動揺し、慌ててしまいます。
普段から何らかの不調や異変を察知できればいいのですが、この年代の子どもは親と距離を取ることが多いため、なかなか事前に把握することができません。
そんなときは、次のような方法で対処してみましょう。
- 担任の先生に相談する
- スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーに相談する
- 別の高校に転入を勧める
- 留学す
- 通信制高校に転・編入する
担任の先生に相談する
子どもから高校を中退したいと伝えられたら、まずは学校の担任の先生に相談してみましょう。
子どもが高校生になると、学校での様子をあまり家庭内で話さなくなります。また、思春期で複雑な面もあるため、子どもから聞き出そうと思っても素直に話さないでしょう。
担任の先生に、学校で何かあったのか、いじめを受けていないか、最近の学習態度や成績はどうなのか……などを聞いてみてください。
その上で「退学を考えている」ということを伝えて、現在の学校を続けるのがいいのか、退学させるのがいいのかを話し合います。もちろん話し合いは子どもの気持ちが最優先されますが、3者で話し合ってもっともベストな答えを導き出すようにしましょう。
スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーに相談する
スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーに相談するのもひとつの方法です。
ただ、上でも書いた通り、すべての学校にスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーが在籍しているわけではありません。
相談する際には、事前に子どもの様子をよく観察して、問題をしぼって相談するといいでしょう。
参考:文部科学省 スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの役割(P24)
別の高校に転入を勧める
高校を中退すると最終学歴が「中卒」になり、その後の人生で何かと不利になってしまうので、親としてはなんとか高校卒業できるようにサポートしてあげましょう。
そのひとつとして別の高校に転入するという方法があります。一般の転校と同じですが、受け入れの時期や人数、学科が限られていること、転入に際してまた試験があることなどの問題があります。
子ども自身がそれでも別の高校に入り直したいのかどうか、しっかり意思を確認することが大切です。
また、転入先の学校が合わない場合は、「もう二度と高校には行かない」と言われる可能性もあるので、十分な調査と本人への説得が必要です。
留学する
子どもの可能性を伸ばす方法のひとつに、留学するという選択肢があります。
ただ、経済的な面や留学先の治安や生活など、親としては不安な部分が大きいものです。信頼できる留学エージェントや留学カウンセラーを見つけて相談することが重要です。
通信制高校に転・編入する
通信制高校に転・編入することで、無理なく高校卒業がめざせます。上でもご説明した通り、通信制高校の多くは転入や編入の受け入れを行っています。
募集時期は4月と10月に限定している学校もありますが、随時募集している通信制高校も多く、受験も書類審査のみという学校が多いので、全日制と比較して入試の負担はかなり軽減されるでしょう。
また、通信制高校にはメリットも多く、登校は月または年間の数日だけ、全日制高校で修得した単位が引き継げます。
(単位の引き継ぎには条件があるので、事前に確認しておきましょう。)
最近の通信制高校はさまざまなコースがあり、全日制高校では学べないような魅力的な内容も豊富です。大学進学率が高い通信制高校もあるので、お子様と一緒に探してみてはいかがでしょうか。
高校を中退したいときの対策~まとめ
全日制高校に通う高校生の約18,000人は途中で退学しています。
その理由はさまざまですが、学校に合わない、学業の不振、進路変更などがあります。
無理をして合わない高校に通い続けることは心身のストレスになり、健康的ではありません。
そんなときは保護者や学校の先生とよく相談して、今後の人生について話し合ってみましょう。学校によってはスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーが相談に乗ってくれるところもあります。
退学後の選択肢としては別の全日制高校に転・編入する、留学する、通信制高校に転・編入するなどがあります。
特に通信制高校は登校日数が少なく、自分のペースで学習できるのでおすすめです。学校によってはユニークなコースを設けているところがあるので、いくつかの学校で資料請求して比較検討されるといいでしょう。
きっとあなたに合う通信制高校が見つかりますよ。